小学館 月刊flowers

珠玉の少女まんが進化形

「少女革命ウテナ After The Revolution」発売記念 さいとうちほ先生×幾原邦彦監督 特別対談!

2018年5月10日

20年ぶりの完全新作となる「少女革命ウテナ After The Revolution」の発売を記 念して、月刊フラワーズ2017年9月号に掲載された、さいとうちほ先生と幾原邦彦監督の対 談を特別公開!

20年ぶりに新作を発表するにあたってのお二人の心境など、ここでしか語られない秘蔵トークをお楽しみください。

さいとうちほ

1982年『剣とマドモアゼル』でデビュー。『花音』で第42回小学館漫画賞を受賞。月刊フラワーズにて『ブロンズの天使』『アイスフォレスト』『とりかえ・ばや』等を連載。現在発売中の月刊フラワーズ6月号からは「竹取物語」をモチーフとした『輝夜伝』をスタート。

幾原邦彦

アニメ監督、演出家、音楽プロデューサーなど多岐に活躍。『美少女戦士セーラームーン』シリーズディレクター等務め、クリエーター集団「ビーパパス」を結成。『少女革命ウテナ』『輪るピンクドラム』『ユリ熊嵐』などを監督。現在、2019年放送予定の新作アニメ『さらざんまい』を製作中。

20年の時を経て、新作発表

── 月刊フラワーズに掲載される『ウテナ』の新作は、どのようなきっかけで発表されることになったのでしょうか?

さいとう(以下・さ) 今年が放映20周年だったので、心に留めてはいたんです。そんな時にフラワーズ編集部から「20周年に描きませんか?」とオファーがあって、やっぱり『ウテナ』のまんが担当としてはまんがを描く責任があるよね、って…(笑)。

幾原(以下・幾) 5年前だったら断ったかもしれないですけど、もう20年経ってるので…。今回の新作も「見たくない」という意見もあるかもしれないけど、ここまでウテナのことを想い続けてくれてる人がいるのであれば、アナザーストーリーのひとつとしてこういうのもありますよ、ってファンサービスするのはありかなと思ったんですよね。

 劇場版を観た時に、続きなんだけど『ウテナ』とは別の話になってたから、「ああいうことでいいんだな」というのがあって。

 いろんな『ウテナ』があっていいと思うんですよね。TV版があったり、劇場版があったり、まんが版があったり。そのまんが版がひとつ増えるということは、ファンの方も許容してくれるんじゃないかなと。

 あれだけ凄い表現で色んなことをやったアニメなので、こんなウテナもありますよ、って言っても許されるかなと思ったので、やってみようかと。

── 新作のまんがは今(インタビュー時 2017年5月)、制作中と伺ってますが…。

 監督のプロットの取りかかりがすごく早かったので「楽勝じゃない?」と自信満々に待ってたんですけど(笑)、今は途中でちょっとつまずいていろいろ相談しあってる最中なので、まだ話が完全にはできあがってなくて。

 やっぱり自分の中に「誰も観たことがないものを作りたい」という欲があって。アニメの時も、一度みんなで「普通こうだよね」とコンセンサスを得たものを一回ゼロリセットして、みんながそれで真っ白になった後に、そこからひねり出されたものを採用するっていうことが多かったんです。大変だったと思うけど、いろいろ試行錯誤したからこそのビジュアルパワーだったりストーリーの勢いだったりはあるのかな と。

 それを今またやろうとすると、非常に大変ですよね…。

 でも今は『ウテナ』はそういうもんだ、ってわかってるところはあるじゃないですか(笑)。 その心の準備がないとお互い「何をやろうとしてるんだろう」みたいなことになると思うんだけど、「この作品ってシュールな展開だよね」と読者もわかってるし、こちらも「そういうシュールなことが起こるんですよこの作品は」とわかってるんで(笑)。

『ウテナ』での久しぶりの共同作業

── 久しぶりに『ウテナ』に向き合ってみていかがでしたか?

 あまり違和感ないですね。

 うん、ないですね。当時は「西園寺や冬芽はどういうやつなんだ?」っていうのが僕とさいとう先生も食い違ってるし、各スタッフでも食い違ってた。でも今はもうキャラが一回できあがってるので、そういう意味での迷いはないですよね。それよりは逆算的に「彼の性格ならこういうことするんじゃないの」とか「彼はそういうことしないだろうね、たぶん」という作り方です。

── お二人にとって『ウテナ』とはどういう作品ですか?

 僕の場合、『ウテナ』に限らず作品を作る時はそうなるんですけど、「イニシエーション」ですかね。“通過儀礼”的な作品というか。これをやりきらないと、このトンネルを抜けないと次に進めない、という作品でした。その作品がちょっと時代からずれてるとか行きすぎてるということは自分でも分かるんだけど、どうしてもそれをやりたくなって、どんなトラブルがあっても、この通過儀礼を乗り切らないと次に進めないんだと自分がなっちゃうんですよね。

 私はずっと自分ひとりでまんがを描いていたので、共同作業をするのが初めてだったんです。自分の意見も反映してもらってるんだけど、「どういう風にできていくんだろう?」と結果を見るのがすごく楽しみでした。世間的にも、まんが以外の場所で評価してもらったりしたので、私にとっては「ギフト」みたいな感じです。

 当時は印象深い作品をつくろう、観た人がずっと忘れられないようなオンリーワンの心に残る作品を作ろう、と思っていて。 実際に今、20年経って、まだこんなに好きだという人が多い作品だったんだ、というのは意外な嬉しさではありましたね。当時は「誰に向けて作ってるんだ?」とはよく言われたんですけど、時間が経って今、「あ、届いてたんだな」と思う嬉しさがあります。

 割と女の子のファンもずっと大事に持っててくれてますよね。作品の中に20代のスタッフ達の悩みとか苦しみみたいなものも入ってたんだけど、身近なものとしてダイレクトに受け取ってくれたんだなと。モチーフは私の作品だったかもしれないけど、監督とかスタッフの心情が、がーっと詰め込まれてた感じがするんですよ。

ウテナの「挫折」は女の子の内面にも

 当時の自分達が置かれていた立場の切迫した心情が、作品に反映されていた部分はあったかもしれないですね。それと、“女の子の居場所”みたいな話なので、そこもみんなの心に残ったところなのかなあと。「女の子はどうなりたいの?」「女の子はこの社会の中で脇役なの?」という自問というか。結局『ウテナ』の一番中心にあるのは「挫折」だと思うんですよ。その挫折っていうのが、作り手の僕らの挫折の話でもあって。

 それを考えると、女の子はそんなに子供の頃から挫折を知ってるんだなあというのが…。

 みんなの心に『ウテナ』が留まってる理由は、中心にあるのが挫折だからかなと。これがサクセスの話だったらすぐ忘れられたと思うんです。

 成功の話だったら憧れてそうなりたいな、っていうのはあるけど、挫折だと「自分の話だ」と思いますもんね。

── 女の子の自問の話というと、さいとう先生の作品『とりかえ・ばや』にも通じるところがありますよね。

 そうかもしれないですね。平安時代から女の子は挫折してたんだなあと…(笑)。

── 『ウテナ』を描いたことで、ご自身の作品に影響を受けたことはありますか?

 その頃までは私は百合的なものが描けなかったんですが、『ウテナ』を描いた時に「ああ、いいな」って思ったので、『とりかえ・ばや』で四の姫と男装した沙羅双樹が結婚したところは楽しんで描いてました(笑)。 女同士で結婚してるんだけど、ばれてもいけないからハラハラドキドキみたいな。『ウテナ』の経験が『とりかえ・ばや』の女の子同士の可愛い関係に反映されたと思います。

楽しんで描いたという四の姫(しのひめ)と沙羅双樹(さらそうじゅ)の《女同士の》結婚。『ウテナ』で得たことが『とりかえ・ばや』へとつながっている。

── それでは、『ウテナ』ファンの皆様にメッセージをお願いします。

 『ウテナ』を20年も観ていてくださってありがとうございます。僕としてはこれほど長くみんなに好かれてるキャラクターになるとは思わなかったんですけど、もしかすると初めてまんがを読むとか初めてアニメを観たっていう人にとってのイニシエーション的な体験になれたということが、この作品のいいところなのかなと思いますね。今回、初めて『ウテナ』を知る人もいると思うんですけど、そういう人のためにも今回の新作掲載はあっていいなと思ったし、また『ウテナ』がメディアで取り上げられることで励まされる人もいるんだろうなと思ったので、どうか許してくださいということで…お楽しみいただければ(笑)。

 私もやっぱりちょっと「許してください」と思いながら描いていて…(笑)。 すごく美しく終わって、あんなに感動的な最後を迎えた作品を汚すことになりはしまいかと恐ろしい思いもあるんですけど、まぁみんな大人になったんだから許してほしいな、って…(笑)。

 みんなの心の中にあるものだから、作り手側が、そのイメージを壊すことになっちゃうかもね、って話はさいとう先生ともしたんですよね。それでも『ウテナ』を待ってくれてた人達はいたと思うので、その人たちのためにももう一回表に出てみましょう、と自分たちは納得しあったんだけど…。

 だって10年後には描けるかわからないですよ、体力的なことを考えても。そうするとギリギリのチャンスかなぁって。せっかく20周年っていう年月も味方してくれて、チャンスも与えていただいたわけだから、なんとかチャレンジさせてほしいっていう気持ちです。

── さいとう先生、それではご自身のファンに向けても一言お願いします。

 今までこうやってまんが家一筋の生活をさせてもらえたのは、ひとえに読者の方々が本を買ってくださったおかげなのです。なので、読んでる人が喜んでくれたり、心の支えにして「来月まで、この続きを読むまで頑張ろう」と思ってくれるような作品を少しでも長く提供できたらな、という気持ちです。まんがしか描いていない私ですが、誰かの日々の何かの役に立ちたいという思いで描いてるのかなと思います。本当に感謝しています。

── お二人とも、ありがとうございました!

この対談の完全版は、発売中の「新装版 少女革命ウテナ 5巻」に収録されており、 そちらではアニメ放映当時のお二人のやりとりなど、さらにディープなトークが!

新作「少女革命ウテナ After The Revolution」と合わせてぜひお楽しみください 。

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