2001.5
  あこがれの先生に聞きたい・あんなことやこんなこと、
  大好きな作品への疑問・質問をまとめてぶつけ、
  あまつさえ先生の素顔にせまってしまおう!
  というこの欲張り企画。
  今回のお客様は、萩尾望都先生です!


Q1.まずは、お疲れさまでした。1992年から世紀をこえて描かれてきた作品を終えられた感想はいかがですか?
そちらもお疲れさまでした。長年にわたっておつきあいいただいてありがとうございます。連載当初は4年以内に終わるだろうと思ってはじめたので、9年もかかってしまって自分でも驚いてます。とにかく終わってホッとしています。


Q2.PF前号予告で「最終回」と載せたんですが、その前にまったく告知をしていなかったので、読者の中には突然という印象を持ったかたもいたようです。今回で終える事をいつごろお決めになりましたか?
ハッキリ決めたのは2000年の9月頃かな。編集と打ち合わせをしていて、おととしは、16巻で終わります、っていってたんですが・・・16巻と・・・100Pぐらいになりそう・・・いや、やはり17巻になりそう・・・と、ジワジワと変化していきました。


Q3.1997年にこの作品が手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞された時に、「(結末は)ハッピーエンド」とおっしゃってましたが、そのころから結末は決まっていたのでしょうか?
ハイ、最後はお墓に行って、ひとやまこえた感じでラスト、と決めてました。その数年後の生活というのを2ページぐらいエピローグで付けようと思ってたんですが、エピローグも15ページと長くなってしまいました。


Q4.児童虐待関連のニュースは最近でこそ珍しくないですが、連載開始当初は話題になり始めたばかりのころかと思います。この作品を描こうと思われた直接のきっかけなどは、ありますか。
児童虐待の症例を書いた本を20年以上前に読んだことがあって、それがずーっと気になってて・・・というのも一因だと思います。自己、人格形成期に、本当につらい目に遭ってしまったら・・・今は“トラウマ”と言えば通じやすいんですが、・・・忘れることができないときどうしたらいいのか・・・などなど、考えてしまって・・・。


Q5.実際に家庭内で性的虐待を受けるのは、女の子の場合が多いと言われています(アメリカでの統計など)。ジェルミがグレッグに「卵を産め!」と鞭で打たれるシーンは、産みたくないのに「子供を産め!」と責められる女性と重なって見えます。ジェルミを少女ではなく少年に設定されたのには、なにか理由がありますか?
キャラクターを少女にするとお母さんとの関係が変わっちゃうんですね。少年だから、義父に対して愛人となり、母に対しては恋人として存在できる。少女だと、義父に対して愛人になれても、母に対してはライバルの性として存在してしまうので、設定が変わってしまいますね。すると話も展開もやはり変わってしまいますね。やっぱり少年-母親の関係じゃないとこの話のバランスはうまくいかないんじゃないかと思いますが・・・。


Q6.最初、ジェルミが主人公のように見えましたが、徐々にイアンの存在が大きくなってゆきます。あえて主人公をあげるとすれば、だれでしょうか?
主人公はジェルミですね。イアンは、仮にいなくても、このドラマそのものは存在しますから・・・。といっても、イアンが重要な人物であることに変わりはないのですが・・・。


Q7.グレッグというサディストをあそこまでリアルに描かれるにあたって、何かモデルとか、イメージの上で参考にされたものはありますか。
性格の上、特に会話のやり方(全て弱者のほうに責任を転嫁する方法など)では、ヒントになった人もいますが、そのモデルは1人ではなく、何人かの人間を集めたもので、それは誰かというと、子供の頃から“この人はなぜこういうもののいい方をするのだろう”と私が悩んだそういう人びとです。でも描いてみたら、グレッグはとてもおもしろいキャラクターでした。悪人って、描くとおもしろいんだなと改めて思いました。


Q8.この作品の読者の年齢層はたいへん幅広くて、子供世代の読者はジェルミやイアンに共感し、親世代の読者はサンドラやグレッグの心の闇について知りたいと思っているようです。<親>と<子>の葛藤は先生の長年のテーマだと思うのですが、この作品では<親>の描かれ方が徐々に変わっていくように見えます。それはつまり<子>であるジェルミやイアンの<親>に対する見方の変化だと思うのですが、子供を抑圧する絶対的な<怪物>から、その怪物もまた一人の弱い<人間>であり、なぜそうゆう行動をするのか理解しようとする方向に。それは先生の関心の変化と考えていいのでしょうか?
う〜ん、おもしろい質問・・・ですねえ・・・。読者はそんなふうに考えるのかなァ・・・? いやー、これは物語だから変化していくんですね。キャラクターの認識や事件と共に変化していく。そうしないとラストが来ないんですよ。キャラクターは私の創造物であると同時に他者なんですよ。私の見解の代弁者じゃないんです。そこらへん、ちょっと一言でいえないビミョーなものがあります。


Q9.第1巻冒頭のイアンのモノローグ「ある 悲しみの話を/しようと思う」にある「悲しみ」は、だれの「悲しみ」なのでしょうか。第9巻の「どうしてぼくはジェルミをわかってやれなかったのか?(略)わたしはただ一人だ/わたしは孤独だ/今夜その孤独に名前をつけよう/“悲しみ”と」の「悲しみ」とも取れますし、また一方で、イアンの「悲しみ」だけでなく、ジェルミの「悲しみ」、サンドラの「悲しみ」、グレッグの・・・ともっと大きな「悲しみ」のようにも思えますが?
そうですねー、そう思えますねー、これはこれは質問と回答が同時に入ってますねー。誰の悲しみかってのは、別に誰のでもいいですねー。愛しい、恋しい、さみしい、苦しい、にくらしい、悲しい、と、愛から悲しみへ行く間にはいろんな感情がありますけど、その感情の中で愛と悲しみだけが唯一の孤独をかかえているというのが私の考えなのです。


Q10.最終回、サンドラがあんな形で現れたことに驚かされました。あのシーンはいつごろから先生の頭の中にあったのでしょうか。
あんな形で出るとエグいですねー。サンドラもなんで出てくるんでしょうねー。ま、ジェルミの意識の中で起こってることですから、ジェルミに聞かないとわかんないですねー。あなたの頭にいつからあったの?と・・・


Q11.あらためて、タイトルの意味ですが、「残酷な神」が支配するのは何なのでしょうか? 
何なんでしょうねえ。神というのは愛、報復、許し、癒し、等々、人間が縋(すが)る対象なんですが、縋(すが)る神が実は残酷であったら、けっこうコワいですねー。だから支配するのは何でもよくて、支配するカミの性格に問題があるってのがミソですねー。


Q12.先生ご自身は「愛」を信じてらっしゃいますか?
わかんないです・・・。いや、信じてますよ。ただ、考えはじめると、愛って何でしょう?と、わかんなくなりますねえ・・・。


Q13.この作品を描く前と比べて、先生ご自身の考え方や状況の変化などを感じることはありますか。
10年前は世界の不条理に怒り、どこかに解答が見出せるハズだ、人間はそこまでバカじゃないハズだと思ってましたが、今は・・・。世界は不条理であること、解答がないことを含めて世界なのだろうなァ、人間が(私も含めて)バカなのも世界のうちなのだろうなァと考えるようになりました。


Q14.作品の舞台となったアメリカやイギリスに取材に行かれてますが、一番印象に残った場所や事はなんでしょうか。
土地の形態がおもしろかったです。例えば、イギリス、ドーバーの白い崖と海、周辺の丘、あと、ニューヨークに行ったとき、マンハッタン島がどこまでもフラットだったこと、などです。写真で見てはいても、その場に立つと、ありありと三次元空間が広がっていて、その空間の感覚が新鮮でした。


Q15.先生の健康法やストレス解消法を教えてください。
散歩。この頃はドクダミ茶、ビワの葉茶等、ハーブ・ティに凝ってます。


Q16.最近ご覧になっておもしろかった映画や舞台・本など教えてください。
映画では「シックス・センス」「エリザベス」が、おもしろかったです。
舞台では、「エリザベート」(ミュージカル)、「パンドラの鐘」(NODA・MAP)、「夜への長い旅路」がおもしろかったです。本は、ちょうど今読み終えた「模倣犯」(宮部みゆき)がおもしろかったです。


Q17.甲斐よしひろさんは別格としまして、先生がいま最も美しい、もしくはカッコイイと思われる男性は?
う〜ん、金城武です。あのちょっとこまったような目がキレイです。


Q18.今後の活動予定をお聞かせください。
この連載の間、9年間、お休みがなかったので、一年間お休みして、リフレッシュしたいと思います。休みの間は、やりたいことは、連読法をマスターしたい、サッカーを見に行きたい、ビーズづくりをしてみたい、温泉に行きたい、TOTOで1億円をあてたい、(あ、これは活動予定じゃなく夢)です。


Q19.ファンの方々に一言メッセージをお願いします。

長期連載におつきあいいただいて、ホントにありがとうございます。正直、もうこんな長編を描くことはないと思います。えー、引退まであと10年ぐらい仕事はできそうなので、また、ぼちぼちマンガを描いていこうと思います。そのときはまたおつきあいいただけるとうれしいです。次は現代日本を舞台にしたものとかSFとかを描いてみたいです。

萩尾望都


萩尾先生、お忙しい中ありがとうございました!

次回のお客様は、佐藤史生先生です。